ホラー映画「イット・カムズ・アット・ナイト」は評価に困る。
「イット・カムズ・アット・ナイト」は評価に困るホラー映画だ。
「イット・カムズ・アット・ナイト」(原題はIt Comes at Night)は
2017年にアメリカ合衆国で公開、
監督・脚本はトレイ・エドワード・シュルツ。
トレイ・エドワード・シュルツは2010年に短編「Mother and Son(原題)」(2010)で監督デビュー。
テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」(2011)では撮影アシスタントとして参加。
自身の家族や親族のエピソードをもとに描いた短編映画「Krisha(原題)」(2014)でサウス・バイ・サウスウエスト映画祭の短編コンペティション部門で撮影賞を受賞。
翌年に製作した同作の長編版「クリシャ」はカンヌ国際映画祭批評家週間オフィシャルセレクションに選出され、サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)映画祭では審査員特別賞と観客賞をダブル受賞、アメリカン・インディペンデント・フィルムでは作品賞、監督賞を含めた5冠に輝くなど、数々のインディペンデント映画祭を席巻した。
そして、長編第2作目がこのホラー映画、「イット・カムズ・アット・ナイト」。
主演のポール役にジョエル・エドガートン。
ジョエル・エドガートンと言えば、2015年公開映画「ザ・ギフト」(原題: The Gift)を思い浮かべる人も多いはず。
ジョエル・エドガートンは、このスリラー映画で不気味なストーカー役を務め、監督と脚本と製作も手がけている。
(主演はジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール)
映画「イット・カムズ・アット・ナイト」はどんな映画なのか?
あらすじを最後まで紹介する。
(ネタバレあり)
夜やってくる“それ”の感染から逃れるため、森の奥でひっそりと暮らすポールとサラの夫婦。二人には17歳になるトラヴィスという息子がいる。そこにウィルと名乗る男と妻のキム、幼い男の子のアンドリューが助けを求めてやって来る。
ポールは“それ”の侵入を防ぐため「夜入口の赤いドアは常にロックする」というこの家のルールに従うことを条件にウィルら家族を受け入れる。
ふたつの家族の共同生活が始まる。しかし、ある夜、赤いドアが開いていたことが発覚し、同時にポール一家の犬が何者かによる外傷を負って発見される。
”それ”の感染を恐れ、疑心暗鬼になるふたつの家族。
猜疑心、そして”それ”への恐怖が加速してゆく。
ポールはお互いの家族のしばらくの”隔離生活”を提案するが、ウィルは妻と子とともに家を出ていくことを決意。
食料と飲み水を分けて欲しいと頼むウィル。
ウィルたちの家族の誰かが”それ”に感染しているのではと疑うポールとサラ夫婦。
押し問答をしている間に緊迫感が増し、格闘になるポールとウィル。
ポールを助けようとサラがウィルを銃で射殺。
ウィルの妻キムはアンドリューを連れ、森に逃れようとするが、二人ともポールに撃たれてしまう。
だが、”それ”に感染していたのは、実はトラヴィスだった…
シンプルなストーリー。登場人物もさほど多くない。
(途中、謎の銃撃戦もあるが)
上映時間は92分。
最後まで見れるのは演出の力とセンスあるカメラワークだろう。
ただし、謎の大部分が謎のままで終わる”こけおどしホラー”。
冒頭、ポールの義父が”それ”に感染し、残された家族を守るため、やむなく森に連れてゆくポールとトラヴィス。
二人は感染を防ぐために防護服と酸素マスクをしている。
義父を死なせた後、遺体を焼くポールたち。
(”それ”がなんらかの未知の病原体だとわかる瞬間)
コロナ・ウィルスという未知の病原体に人類が蹂躙されている現在に見ると臨場感あり。
“それ”についての説明も経過もなく、現在だけを追っているところもリアル。
愛犬が森の中にいる何かに触発されて追いかけ、行方不明になる中盤は良しとして、何者かによって殺された愛犬の死体を見て、感染だけを問題視する大人たち。
愛犬を殺傷したのは?
赤いドアを開けたのは?
後半、義父の残した酒をポールとウィル。
生い立ちを話すウィルの話の一部が食い違うシーンがある。
ポールに指摘され、慌てて訂正するウィル。
ぎこちない雰囲気。
(このあたりの芝居は上手い。台詞を言うのは簡単。雰囲気を醸し出すのが演技)
ラスト近く。
ウィル家族は”それ”に感染したのか?説明も描写もない。
(後味の悪さが残る。それが狙い?)
このホラー映画「イット・カムズ・アット・ナイト」はネットでも色々な憶測を呼んでいるよう。
劇中に出てくるピテール・ブリューゲルのペストの恐ろしさを描いた「死の勝利」がモチーフだとか、何度か登場するポールの息子トラヴィスの悪夢のシーンからトラヴィス自身が夢遊病で夜の森を彷徨っているのではないか?とも言われています。
不条理で説明のつかないシーンが多いことから、筆者はこう考えてみました。
街に突如蔓延る未知の病原体から逃れようと山奥に逃れてきたポール一家。
義父の突然の発病と残酷な死を目にし、トラウマになったトラヴィス。
ウィルたちの家族も存在せず、愛犬もすでに亡くなっていて、謎の病原体に侵されていくトラヴィスの見ている悪夢が作り出した物語。
トラヴィスは夜の森の静けさと闇からそれは夜やって来ると考えていた…。
こんな解釈もありかも。
カードを全部開けずにいくつか伏せたまま終わる物語は好きだ。
筆者も脚本家の末席を汚しているが、カードを伏せたまま終わる物語を常に書いている。
(自分の作ったストーリーをあーだ、こーだと見終わって議論してくれたら実に楽しい)
この映画「イット・カムズ・アット・ナイト」はほとんどの謎は解明されずに終わる。
こけおどしの緊迫感あるシーンの連続は作り手の意図だとは思うが、困惑する映画であることは事実。
でも、安っぽくないんだよなー。
赤いドアの画なんかキューブリックみたいだし、映像センスは素晴らしい。
(才能を感じる)
さて、トレイ・エドワード・シュルツの三作目は青春群像劇「WAVES ウェイブス」(2019)
こちらは360度回転するカメラワークが話題。
(予告編で見たがテレンス・マリックぽい映画)
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お時間あればご覧ください。
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